土浦×香穂子
夢のおはなし
※
『”彼”と白い肌』別視点のお話です
続き物ではないので、それぞれ単独でも読めます
破られた静寂と一緒に、私は空気に溶けた。
これは夢だから、記憶と一緒に、空気に溶けた。
夢を見た。
あたしは寝ている夢だった。
エントランスのベンチですやすやと、荷物を抱えて。
気持ちよさそうに眠る私の寝顔は、我ながら可愛かった。
だって夢だし。
実際は白目むいてよだれ垂らして寝ていたかもしれないけど、夢のなかの私はとっても可愛い。
これこそ夢の醍醐味だ~ッなんて思いながら、私は少し離れた、第三者の視点で私を眺めていた。
どうやら下校時間が近いらしく、生徒は一人もいない。
小さな寝息さえ響きそうな静寂の中、私は一人で眠っている。
ふいに言いようもない寂しさを覚えた。
眠っている私が寂しいと感じたのか、見ている私が感じたのかはわからない。
ただただ押し寄せる寂しさの波に、見ている私はぽろぽろと涙を零した。
思えば、泣いたのなんて久しぶり。
コンクールに突然参加することになって、泣きたくても泣く暇なんてなくて。
やめちゃおうかな、って涙浮かべながら思ったときには、
いつも
いつも、君がいてくれたね
あたしがめげそうなのを知ってか知らずか、"頑張れよ"なんて爽やかな笑顔で言っちゃうんだ。
するとあたしはどうしてもその笑顔をもう一度見たくて、めげそうだったのを忘れてしまう。
君の笑顔を見るとね、あたしはすごく強くなれるの。
ああこれは恋なんだ。
私は唐突に気がついた。
あの人が好きだって。
笑顔を見ていたいって。
一緒にいたいって。
ぽろぽろとこぼれ続ける涙が、恋い焦がれるように、彼を呼び寄せた。
-土浦梁太郎。
慌てたように小走りで眠っている私に寄ってきたかと思うと、途中で歩幅をゆるめ、呆れたように私を眺めている。
びっくりするほど、私が弱いときにいつもいてくれる、彼だった。
ああこれは夢なんだった。
あたしがそばにいてほしいって願ったから、彼は来てくれたんだ。
眠っている私は流していないはずの涙を拭うように、彼は私の頬に触れた。
ぬくもりを感じて頬を触ると、とめどなく溢れていた涙が消えていた。
やっぱり土浦くんはすごいなぁ。
あたしの弱さ、全部吸い取ってくれる。
どくどくと悲鳴をあげていた胸も、とたんにどきどきと嬉しがる。
もしも、もしも彼に見てもらえたら。
もしも、友達としてじゃなく、ひとりの特別な存在として、見てもらえたら。
手を繋げるかも。
抱きしめてもらえるのかも。
キス、してくれるのかな。
彼のくちびるが、寝ている私にそっと近付く。
ああ、これは夢だから-
キンコンカンコン
大音量でチャイムが響く。
破られた静寂と一緒に、私は空気に溶けた。
これは夢だから、記憶と一緒に、空気に溶けた。
++++
ありがとうございました!
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