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奏。-かなで-

金色のコルダ二次創作サイト

2024.05.15 Wednesday 04:56

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土浦×香穂子

夢のおはなし

※ 『”彼”と白い肌』別視点のお話です
続き物ではないので、それぞれ単独でも読めます




破られた静寂と一緒に、私は空気に溶けた。
これは夢だから、記憶と一緒に、空気に溶けた。








夢を見た。
 
あたしは寝ている夢だった。
エントランスのベンチですやすやと、荷物を抱えて。
 

気持ちよさそうに眠る私の寝顔は、我ながら可愛かった。
だって夢だし。
実際は白目むいてよだれ垂らして寝ていたかもしれないけど、夢のなかの私はとっても可愛い。
これこそ夢の醍醐味だ~ッなんて思いながら、私は少し離れた、第三者の視点で私を眺めていた。
 
どうやら下校時間が近いらしく、生徒は一人もいない。
小さな寝息さえ響きそうな静寂の中、私は一人で眠っている。
 
ふいに言いようもない寂しさを覚えた。
眠っている私が寂しいと感じたのか、見ている私が感じたのかはわからない。
ただただ押し寄せる寂しさの波に、見ている私はぽろぽろと涙を零した。
 
思えば、泣いたのなんて久しぶり。
コンクールに突然参加することになって、泣きたくても泣く暇なんてなくて。
 
やめちゃおうかな、って涙浮かべながら思ったときには、

いつも
 
いつも、君がいてくれたね
 

あたしがめげそうなのを知ってか知らずか、"頑張れよ"なんて爽やかな笑顔で言っちゃうんだ。
するとあたしはどうしてもその笑顔をもう一度見たくて、めげそうだったのを忘れてしまう。
 
君の笑顔を見るとね、あたしはすごく強くなれるの。

ああこれは恋なんだ。

私は唐突に気がついた。
あの人が好きだって。
笑顔を見ていたいって。
一緒にいたいって。
 

ぽろぽろとこぼれ続ける涙が、恋い焦がれるように、彼を呼び寄せた。

-土浦梁太郎。
慌てたように小走りで眠っている私に寄ってきたかと思うと、途中で歩幅をゆるめ、呆れたように私を眺めている。

びっくりするほど、私が弱いときにいつもいてくれる、彼だった。


ああこれは夢なんだった。
あたしがそばにいてほしいって願ったから、彼は来てくれたんだ。
 
眠っている私は流していないはずの涙を拭うように、彼は私の頬に触れた。
ぬくもりを感じて頬を触ると、とめどなく溢れていた涙が消えていた。


やっぱり土浦くんはすごいなぁ。
あたしの弱さ、全部吸い取ってくれる。

どくどくと悲鳴をあげていた胸も、とたんにどきどきと嬉しがる。
 
もしも、もしも彼に見てもらえたら。
もしも、友達としてじゃなく、ひとりの特別な存在として、見てもらえたら。
 
手を繋げるかも。
抱きしめてもらえるのかも。
キス、してくれるのかな。
 

彼のくちびるが、寝ている私にそっと近付く。
ああ、これは夢だから-
 

キンコンカンコン


大音量でチャイムが響く。

破られた静寂と一緒に、私は空気に溶けた。
これは夢だから、記憶と一緒に、空気に溶けた。




++++

ありがとうございました!
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