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奏。-かなで-

金色のコルダ二次創作サイト

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2009.02.14 Saturday 16:03 金澤×香穂子

CHOCOLATE MUSIC

金澤→香穂子

なぁ、日野。
お前さんは、その曲を誰に向かって弾いているんだ?








3月に入って、しばらく経つ。

コートもいらなくなって、街角にはちらほらと華やかな花々が現れた。

心地良い陽気に眠気を覚えつつ背もたれにもたれると、思い出すのは1ヶ月程前のあの日。

あいつは下校時間直前に、ここ-音楽準備室-に飛び込んできた。





「よかった、間に合った!」


下校時間10分前。
そろそろ音楽室にいる生徒を追い払おうかと考えていたときだった。

軽いノックの後、こちらの返事も聞かずに勢いよく扉をあけたのは、他でもない準備室の常連・日野香穂子。


「おいおいお前さん、もう下校時間だぞー?」

日野はさっさと帰れ、と言う意味を含ませたおれの言葉なんて聞く様子もない。
部屋の隅にカバンを置いて、今から演奏する気なのか、ヴァイオリンを取り出しながら、日野は俺に尋ねた。


「せんせ、今日が何の日だか知ってます?」


「え」


何人かの生徒に貰って置きっぱなしだった包みが目に入る。

知らないわけもなく、今日は2月14日…バレンタイン。


女性が男性に、愛を込めてチョコレートをプレゼントする、日。


思わず日野の後ろ姿を凝視してしまう。
こちらに背を向けてヴァイオリンの準備をしていて、表情を読みとることは出来ない。


どきんどきんと、自分の鼓動が聞こえた。




「先生、すっとぼけてもムダですよ?
そのチョコの山、日野に見えないと思いますか?」

日野は俺の机の正面に真っ直ぐ立ち、不敵に笑った。

「山って程じゃないだろ」

カラフルな包みが五、六個。
どれも生徒から、"日頃の感謝"として渡されたもの。

今時のバレンタイン、チョコは恋人だけに贈るものじゃない。
友達やお世話になった人にも、手作りチョコを渡す。

日野の真意を悟り、思わず嘲笑が漏れる。


-いい歳こいたオッサンが、
なに期待してんだか…


「先生ってば、モテモテ」

日野はひやかすように笑った。

いつもとなんら変わらない日野の態度に、ますます自分が嫌になる。
こいつは俺に義理チョコさえくれないかもしれないのに。

そんな心中を悟られまいと、わざと呆れたような声をつくる。

「あほ。
お前さんは俺をひやかしに来たのか?」

日野は俺の心中を察する様子もなく、くすくす笑った。


「チョコ、あげに来たんですよー」


どきっとして彼女の顔を見る-より早く、日野はヴァイオリンを弾き始めた。



背筋をしゃんと伸ばして、真剣な眼差しで弓をひく。

ヴァイオリンを弾く日野香穂子はきれいだと、演奏を見る度思う。
これは多分、俺じゃなくてもそう思うだろう。

どこか柚木梓馬に通ずるような…。
日野は、魅せるのが上手い。


"聴かせたい人がいる"と言うのは、強い。
日野はいつも、誰かに、何かを訴えるように、演奏する。

その熱意は聴衆にも伝わるし、それが"魅せる"演奏に繋がっている。


果たしてこいつは、誰に何を伝えたいのか。


甘く、優しく、切ない
激しい激情のように

ただひとり、だれかを





気付けば、日野の演奏も佳境に入っていた。

紡ぎ出される曲は、甘いメロディが印象的なセレナーデ。
もとは歌曲のその曲に、歌手時代の思い出が蘇る。


そう、その頃俺は、ひとりの女性を愛していた。


今目の前にいるこの少女が、封印していたあの頃の気持ちを蘇らせた。
誰かを愛しく思うなんて、何年ぶりだかわからない。




なぁ、日野。
お前さんは、その曲を誰に向かって弾いているんだ?

今日、この日に、俺の前で弾いているこの曲に、意味を見出しても構わないとでも言うのか?

いい歳扱いて期待してしまう自分に嫌気がさす。



日野の指が最後の一音を奏でて、完璧な演奏が終わった。

きっとこいつは、何ヶ月も前からこの曲を練習していたんだろう。
へらへらしていても、人一倍頑張っているのが、俺の知っている日野香穂子だ。


「以上、日野の気持ちでした。」

しっかりと俺を見据えて、日野は照れたような笑顔を見せた。








待て、お前さんそれは、どういう意味だ。









問い質す隙もなく、日野はそそくさとヴァイオリンをしまい、荷物を抱えてドアノブに手をかけた。

「来月、お返事聞きにきますね」

日野はそれだけ言い残して、扉の外側に消えた。










あれから数週間。
日野には一度も会っていない。

俺は音楽科の教師だから当然だが、日野からこちらへ来てくれない限り、廊下ですれ違うこともない。


殆ど毎日来ていた生徒が来なくなるのは、寂しいことこの上ない。
…それが日野だから余計に。


次に日野が来る日はわかっている。
その時に俺が言うべき事も。


考える度に何かの間違いではないか、と思う。
もしかしたら本当に俺の妄想が生んだ幻かもしれない。
ただの勘違い、かもしれない。

夢か真か、日野はあれ以来来ていないから確かめることも出来ない。


確認し、否定されたらと思うと、情けないが正直怖い。
いい歳扱いて、何ビビってるんだか…ずいぶんと可愛いもんだな、と自嘲する。


だが。


いい加減に、そろそろ、準備室が静かすぎる。


もし、彼女の演奏が、俺の勘違いでも、自惚れでもないのなら。




ぎし、と椅子を鳴らして立ち上がる。


暖かな陽気の中、彼女を探しに行こうとしよう。

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