土浦×香穂子
ちょいあま
夏の終わり。
登校時に。
秋です。
夏の影はとうに消え去って、冷たい空気が露出した腕を撫でていく。
「寒いッ!!」
暑い暑いと騒いでいた頃が嘘みたいに、腕にはさぶいぼ。
いい加減冬服が恋しいと寒がる身体をさすってあげる。
「摩擦摩擦…」
ざしゅざしゅという音とともに生まれる微かな熱。
それは摩擦なんかじゃなくて手の体温だろう、なんてツッコミは受け付けません。
「冬服、着ちまえばいいだろ。着てる女子、何人か見たぞ?」
そういう土浦くんが羽織っているのは長袖のカーディガン。
夏服に少し工夫して、上手に肌寒さを乗り切っている。
「ダメなのッ!冬服は冬服で暑い!」
それは去年嫌というほど味わった。
朝寒くて冬服を着ていくと、昼間には暑くてしょうがなくなる。
妙に暑くてイライラしてきてしまうので、それならいっそ寒くて震える方がマシ、というのが今年の私の考え。
…とはいえ。
「でもやっぱり寒いんだよ~っ」
寒がりで暑がりというのはものすごい不便。
調節難しすぎ。
よく風邪引きます、ええ。
「ったく、しょうがねぇなぁ…」
土浦くんはおもむろに自分のカーディガンを脱いで、私に投げてよこす。
「それでも羽織ってろ。暑くなったら脱げるだろ。」
土浦くんてばわかってない。
半そでの上に長袖の上着って、ゴワゴワしてしょうがないじゃん。
うちの制服ちょっとかたい素材だし。
でも、まだ暖かいニット地のカーディガンは土浦くんのにおいがして。
顔をうずめれば、溶けてしまいそうだった。
「…暑くても、着てる。」
つぶやいて、いそいそと袖を通せば、やっぱり腕の部分がゴワゴワして、
その上サイズが大きくてまるでワンピースでも着ているかのように裾が余った。
「はは、可愛いじゃん。」
カーディガン、まるで抱きしめられたみたいにあったかくて、ふわふわいいにおい。
私の頭をポンポン叩いて、土浦くんは笑う。
どうしよ、もう暑い。
前言撤回。
土浦くんはよーくわかってた。
腕のゴワゴワなんて気にならないって。
すぐに暑いくらいにあったかくなること。
あたしを黙らせるには、もってこいだよね。
私の手を引いて歩く土浦くんは、なーんにも意図せずに、あたしをふわふわさせるプロ。
カーディガンの余りまくった袖口に、そっとキスして。
だいすきだよ、と呟いた。
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